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 4-1. 開かずの間(前編) 投稿者:ゆきちゃん  
「あなたっ!部屋どこか空いてる!?」
 ユキーはそう言って、宿へ入っていった。
「何だ。騒々しい……。今日は客がいっぱいで
どこも部屋が空いてないぞ」
 ユキーのダンナがそう言いながら、奥から出てきた。
「あら〜。困ったわねぇ。実は行き倒れの人を連れてきたから、寝かせなきゃイケナイと思って」
「そーはいってもなー、お前、地下の『3つの開かずの間』以外は全部客が入ってるぞ。まさか、あんなとこに人を泊めるわけにもいくめぇ? 」
「う〜ん。ねぇ、あそこって何なの? 私がお嫁に来た時からすぅ〜っつとあけたことないわよねぇ? 鍵とか、ないの? 」
「いや、鍵はここにあるがなぁ……」
「じゃあ、なんで、開かずの間なのよ? 」
「いや、それはなぁ……。まぁ、ほら、ずっと開けたことないしな……」
「じゃ、理由なんて分からないで、締めっきりにしてたの? かたづければ何とかなるんじゃないの?」
「し、しかしそこはわしのじいさんの頃から、ずっと開かずの間で……」
 ユキーは、その言葉を遮って、
「そんなのどうでもいいわよ!早く鍵ちょうだい! まさか、病人ほっぽりだすわけにもいかないでしょ? それに、他にもお客がいるのよ」
と、ひったくるように鍵を取って部屋を出ていった。

 

 4-2. 開かずの間(後編) 投稿者:ちーぱん  
「さあ、どうぞどうぞ」
 ユキーは勢いよくドアを開け、3人を招き入れた。
「宿帳は、リバータさんを降ろしてからでいいわよね。重いでしょ?」
 ダンナの返事を聞きもせず、ユキーはズンズン食堂の方へと歩いて行く。
「オイ、部屋は2階じゃないのか?」
 ライタールが玄関口で問い掛けると、
「ごめんなさいね〜、今日はあいにく満室なのよ〜。地下にもお部屋があるから、今日だけこっちでガマンしてくれる〜?」
 ランプを3つぶら下げ、食堂の奥にある古びた階段を降りかけながら、ユキーは答えた。
「奥の部屋は、食糧倉庫に使ってるんだけど、手前の3部屋は空いてるから……。ベッドあるわよねえ?」
 ユキーは、何のためらいもなく、一番手前の部屋のカギを開けた。
『ギ、ギ、ギギィー』
 何十年も開け閉てしていなかっただけあって、ドアはすっかりさび付いており、何とも重苦しい音をたてたのだが、部屋の中はクモの巣一つなく思いの他キレイだった。地下室だから当然窓はないのだが、左手奥に小さい暖炉があり、その手前に木製の丸いテーブルとイスが一脚、右手奥には、ベッドがあった。
「あら、全然オッケーじゃない。これなら掃除もいらないわね」
 ユキーは、足早にベッドまで歩いていくと、サササとカバーの上を撫で、ホコリがない事を確認し、掛け布団を捲りあげて中に手を突っ込んだ。
「うん。布団もシケってない。合格!!」
 そのまま掛け布団をどけると、クルリと振り返り
「じゃ、ここにリバータさん寝かせちゃって」
 と笑顔で言った。ライタールは、言われるがままに部屋に足を踏み入れかけたのだが、『ヒヤリ』とした空気に一瞬足を止めた。
「どうしたの?」
「……いや……」
 ライタールはそのまま部屋に入ると、リバータをベッドへドサリと寝かせた。
「何だ。ちゃんとした部屋じゃないか……。おい、この犬はどうするんだい?」
 ダンナが後ろから犬を抱き抱えて入って来た。
「ああ、今毛布を持って来るわ。取り敢えずそこに寝かせておいてよ。それから、薬酒を持って来て
くれる?」
「ああ、使いかけのアレか?」
「そうそう。ライタールさん、じゃ、隣の部屋へどうぞ」
 ユキーはスタスタと部屋を出て行き、真ん中の部屋のカギをガチャガチャと開けた。
「うん。この部屋も大丈夫ね。ライタールさん、お布団とマクラは後で陽に干したものに取り替えるわね。マリートさん、お待たせしちゃってごめんなさい」
 ユキーは、最後の部屋へ行くと、マリートに話しかけ始めた。ライタールは、「やれやれ」と呟くと案内された部屋へ入ろうとしたが、今度は『フワリ』とした空気を感じてまた足を止めた。
(……妙だな……)
 随分長い間使っていなかったらしい部屋にしては中がキレイすぎるし、部屋の中の空気に『淀み』が感じられない。かといって、怪しげな気配があるわけでもなかった。ライタールは部屋の中をランプで一通り照らすと、中へと入って行った。

 

 4-3. 消えた人影  投稿者:ちーぱん  
 一方、チーパルは、作業場に入ると、貰った袋を手早くザルに開けた。
「取り敢えず、必要な分だけあればいいわね」
 2種類の実が一緒になっている中から、適当な分だけそれぞれの実をより分けると、慣れた手つきで重さを計り、すりこぎに入れた。次に作り付けの細かい引き出しをいくつか引き出すと、中から木の実やら、海草やら、木の根など数種類をパパパと取り出し、同じように重さを計るとすりこぎに入れ、手早く砕き小さな鍋に入れると、少量の水を入れ、火にかけた。
「わんちゃんがいるから、少し甘い方がいいかな」
 そう呟くと台所に行き、メープルシロップを取って来ると適量を鍋に入れ、かき混ぜた。
 この間僅か5〜6分であろうか。グツグツと鍋の中が泡立って来た所で火から降ろし、鍋を持ったまま店先へと向かった。
「あ、いらっしゃいませ。御買上ですか?」
 チーパルは、店先で屈み込むように立っている黒いマントの女性に気がつくと、慌てて鍋を置き、声をかけた。
「あ、いえ、こちらにはポスペ用の亜空間通路はありますか?」
「ええ、ありますけど……」
「ちょっと、ポストマンを送らせて貰えませんか?」
「あ、ハイ。いいですよ。こちらです」
 黒マントの女性は、案内された場所に行くと、マントの中からポストマンを出し、亜空間通路へと送り出した。
「旅の御方ですか?」
 チーパルは、特に大きい荷物を持たせるでもなく、自分専用の亜空間通路を使うわけでもなしにポストマンを使うなんて珍しいな、と思いながら尋ねた。
「ええ。旅の絵描きで『ジラーフェ』と申します。今日は、実に面白い物を見させて頂きました」
「面白いもの?」
「ええ、狼煙と、馬に横たわる人です。いやあ、実に絵になる。実に面白い」
「ハア…………」
「こちらに薬酒はありますか?」
「ハイ。薬酒ですね?ございます。携帯用がよろしいですか?」
 チーパルが、後ろのタナの薬酒のカゴを取って振り返ると、もうそこには誰もいなかった。
「あ、あれっ!?」
 チーパルは慌てて店の外に出てみたが、もうどこにも人影はみあたらなかったのだった。

 

 4-4. 目覚めたけれど(前編)  投稿者:ちーぱん  
「……何だったの?今のは????」
 チーパルはひとり呟くと店に戻り、鍋を持って向かいのイジーリントのドアを開けた。
「ああ、チーパル。いらっしゃい」
 宿帳を持って食堂から歩いて来たダンナが、声をかけた。
「こんにちは。ユキーと一緒に帰って来た、行き倒れの人は?」
「ああ、地下の部屋に通してあるよ。ユキーが薬酒を飲ませていると思うが」
「地下?倉庫にいるの?」
「いや、今日は2階の部屋はいっぱいでね。ずっと使ってなかった部屋が地下にあったんで、
 取り敢えずそっちに入って貰ったのさ」
「ふうん。薬酒よりよく効くお薬を持って来たの。ちょっといいかしら?」
「ああ、その奥の階段を降りたら、一番手前の部屋さね」
「分かったわ。ありがとう」
 チーパルは、食堂を横切り階段を降りると、ノックをしてからドアを開けた。
「あ、チーパル。薬酒を飲ませてみたんだけど、やっぱりダメなのよ」
 ユキーは、殆どカラになった瓶を差し出しながら言った。
「足りなかった材料がそろったので、『純元気玉』を作って来たの。飲ませてみましょう」
 チーパルはユキーと位置を変わると、鍋の中からスプーンでトロリとした液をすくい出し、リバータの口に含ませた。スプーン4〜5杯目位だったろうか。
「う……う……うん」
「あ、もし、もしもし?大丈夫ですか?」
「う、う、う……」
「私、2人を呼んで来るわっ!!」
 ユキーは、そう言うと部屋を飛び出して行った。
 チーパルは、一旦リバータへの声かけをやめ、うずくまったままの犬の口にも薬を含ませた。
『ギギーッバタンッ!!』
「どう?気がついたっ!?」
 ユキーが勢いよく閉めたドアの音で、リバータがボンヤリと目を開いた。
「あ、もしもし、分かりますか?」
「……むう……」
 ユキーは、一気にベッドに近づくと、
「よかった〜。全然起きないから、死んじゃったのかと思ったわッ!! あなた、リバータさんって言うんでしょ? 見張り台のところで倒れていたので、連れて来たのよ」
「……りばあた?」
「修道衣の裏にそう書いてあったのよ。読み方が違うの? 名前は何ていうの?」
「……なまえ?」
「そう、あなたの名前よ。リバータさんじゃないの?」
「……しらない」
「知らない〜ッ? 知らないって、どういうこと?」
「……わからない」
「犬と、一緒だったのよ。白いカニがいっぱい詰まってる箱も持ってたわ。狼煙を焚いたでしょう。覚えてないの?」
「……いぬ……」
「そう、ほら、わんちゃんよ。一緒にいたのよ」
 薬が効いたのか、犬が喉の奥の方で『クウン』と鳴いた。
「……こてつ……」
「こてつう!?」
 チーパルとユキーは、顔を見合わせた……。

 

 4-5. 目覚めたけれど(後編)  投稿者:ちーぱん  
「気がついたのか?」
 マリートが勢いよく部屋に入って来、ライタールもそれに続いた。
「気は付いたんだけど……」
「何だ。どうしたんだ」
「ねえ……」
 ユキーとチーパルは、顔を見合わせたまま、どちらともなくため息を付いた。
「訳分かんないのよ……ね?」
 チーパルは、もう一度リバータに向き直ると、ゆっくりと問いただした。
「あなたの名前は、何ていうんですか?」
「……わからない」
「リバータさんでは、ないんですか?」
「……りばあた?????」
「『こてつ』ってなんですか?」
 その問いには、黙って犬を見つめるだけだった。
「覚えてないんだって。なあんにも」
「どうしよう困ったなあ……。あ、そうだ!『カニ』持って来てみる!」
 そう言うと、ユキーはバタバタと部屋を飛び出して行った。
「お前、ホントに何にも覚えてないのか? 狼煙をあげた事も忘れてるのか?」
 マリートは強い調子で詰め寄ったが、リバータの反応は変わらなかった。
 『バンッ』と大きい音を立ててドアが開き、ユキーが勢いよく部屋に飛び込んできた。そのまま一気にリバータの側迄行くと、白い箱を開けて、
「ホラ、これ。あなたが持ってたのよ。覚えてない!?」
「……?」
「やっぱりダメ?」
「無駄だ。これ以上やっても」
 ライタールが口を開いた。
「無駄って……。だって……」
 ユキーが何か言おうとしたが、言葉が見つからなかった。チーパルが励ます様に、後を続けた。
「そうね。ホラ、少し時間が経って落ち着いたら、何か思い出すかも」
「そう……。じゃあ、どうする? このカニ。腐っちゃうわよ」
 マリートがじれったそうに叫んだ。
「食っちまおう!! な、いいよな! 腐っちまっても勿体ないだろ。覚えてないなら、食っちまおう! う〜ん、お前、名前も覚えてないのか。じゃ、リバータ。思い出すまではリバータ。よし、キマリッ」
「……。いいの?食べちゃって?」
 チーパルがリバータの顔色を伺った。
「……かに」
「いいわね、置いといても腐るだけだもの。食べちゃいましょ。ね! うわ〜。カニを食べられるなんて、夢みたいだわ〜ッ」
 ユキーはカニの入った箱を抱えて大喜びで出ていこうとして、クルリと踵を返し戻って来た。
「これ、お客さんみんなには出せないから、食堂で食べるわけにはいかないわ。夕食が終わってから、ここで食べましょ。チーパル、夜呼びに行くわね」
 ユキーはそれだけ言うと、意気揚々と部屋を出て行ったのだった。

 

 4-6. カニ部屋  投稿者:Marito  
「モグモグ……ムシャムシャ……」
「バキッ、……ムシャ。……モグモグ……」
 夕食後、目を覚ましたリバータの部屋にユキーノリー、チーパル、ライタール、そしてマリートは集まった。
 結局、記憶も路銀もなく、行く当てのないリバータは当面、イジーリントで世話をすることとなり、「カニ」は、宿代代わりにユキーらに供されることとなったのだ。
 薬の材料となる、エラやミソはチーパルが買い取ることとした。
 そして、リバータを含む5人と1匹は部屋の小さなテーブルを囲んで「カニ」にむしゃぶりつくとこになったのである。ちなみにユキーの亭主は、地下のリバータの部屋に入るのを拒み自室で、分け前に預かっている。
「んで、食ったところで、あんた本当に何にも思い出せないか? 」
 殻をむくのに飽きて、いち早く食べ終えたマリートがリバータに向き直る。
「犬の名前だけじゃ、手がかりにはならないよなー」
「修道会に問い合わせれば、身元くらいは分かるかもしれんな。 」
 カニでベタベタになった指先をフィンガーボウルの水ですすぎながら、ライタールが云う。
「でも、この街じゃ、ダンキータの教会はないわよ。メールで問い合わせるくらいしか出来ないんじゃないの? それに名前も分からないんじゃ……」
 ユキーが殻をかたづけはじめる。
「んあぁ〜」
 リバータは、うな垂れてため息を吐いた。
「あ、でも、じゃあ人相書きだけでも送って確認してみよっか? それにしても、あの狼煙は何だったのかしら? リバータさんが焚いたわけじゃあないのかしら???」
 チーパルがそこまで云ったところで、マリートはあることを思い出した。
「そうだ、狼煙。あそこで拾ったものがあるんだ。あたしが行った時には、もう消えちゃってたんだけどね」
 腰に下げた小さな皮袋から焼けてボロボロになった羊皮紙の破片を取り出す。紙に書かれた文字はほとんど焼けてしまって判別できない。
「蒼……ュラー……−ル? んー分からないわ。何が書いてあったのかしら?」
 チーパルが手にとって眺め回す。ライタールは、ほんの一瞬眉をひそめた。が、すぐに表情を戻し、
「それだけじゃ、何の手がかりにもならん」
 そう言い放った。
「んあぁ〜あ」
 リバータが今度は、あくびを一つ。こてつが「クゥ〜ン」と鳴いた。
「とにかく、明日。ダンキータ修道会にリバータさんについて確認のメール、送ってみましょ。……ックシュン。」
「あら、大丈夫、チーパル? 今夜はやけに冷え込むわねー。もう時間も遅いし、後のことは明日話しましょう」
 ユキーが席を立つと、全員がそれにならった。
 部屋を出際、マリートが鼻をヒクつかせて呟いた。
「……カニ臭い」

 

 4-7. 白の精・赤の精  投稿者:千曲川  
「……ずいぶん暗くなったな」
 麻袋からランプのカードを取り出すと短く呪文を唱え灯をともした。
 傾いた丸いテーブルに広げられた地図が浮かび上がる。
「やはり道を間違えたようだ。しかし……そんなずは……」
「どうやら地図には載っていないか……蒼……ュラー……−ル、人名と、地名の組み合わせだと思うんだが……あの元気なお嬢さんは気づかなかったようだが、あの紙には“意思”が残っていた。おそらくどこかに封印されていたはず。それともう一つ、あのバスター、あれはおそらく……こんなところで見かけようとは。まあ目覚めることはおそらく無いだろうが……」
“チチチ・チチチ……”
 ガラスのない窓の外から虫の声がする。
外 を見やるといつの間にか重くたれ込めていた雲が取り払われ、満点の星空に白の月と赤い月。
「これは久々! へそ曲げられないうちに称歌湊上するとしよう。 いざというときにそっぽ向かれちゃかなわん」
 背丈に近い弓を手に取ると紋章の部分に手をかざす。するすると、大きな弧の先端にしか張られていなかった弦が順々に増えていく。普段“矢”は持ち歩かない。この弦が“矢”なのだ。
 一応“弓の名手”と言うことで知られているが、ふつうの矢は射たことがない。呪文を唱えさえすれば、勝手に飛んでいく。だから百発百中なのだ。
 わざわざ弓につがえるのは、あまり人に知られたくないからだ。特にあの国では捕まりかねない。知っているのは……あの老人くらいか。以前行き倒れになりそうになっているところを助けるときにカードを使った。ずいぶん旅慣れている様子だったが、もうあの年で遠出は無理だろう。
「♪♪♪ いにしえの時を越え 導きたまふ精霊は
 白き……。 ん? 音が……出ない」
 ……人の気配も、妖気も感じられない。結界が張られた様子もない。いや何か変だぞ……。
 そもそもこの小屋は何だ? どうもこの先の町の監視所らしいが。あの小さな町では、ここそのものが無意味だ。現にもうずいぶんと使われていないようだし。
 ソネット公国での妙な噂、季節にあわぬ天候。なれた道のはずがこんなところへ……。何か起こる……。
 床に大きく六望星を描くと気合いとともに呪文を唱え、結界を張った。
「念を入れるに越したことはないな。明日あたり水と食料を調達しに町に行ってみるか。……薬酒も揃えておいた方が良さそうだ」
 カードの火を消し、きしむベットに横たわると、白い月と赤い月がはっきり見える……。いや、見えすぎだ、ゆらぎもしない。
 真夜中、異様な重力感と、人の気配を感じるまでは静かな夜だった……。

 

 4-8. 真夜中は別の顔!?(前編)  投稿者:Marito  
 皆の寝静まった深夜、ライタールは一人紙巻たばこの紫煙をくゆらせながら、琥珀色の液体を胃に流し込んでいた。
 ――眠れぬ夜。物思いからふと我に返ると、窓の無い地下室は煙に霞んでいる。
 ライタールは、僅かに眉をしかめた。
 時間も遅い、煙草を揉み消すとそのままベッドに向かう。
 ――ガタン! ――
 ……? 不振な物音に顔を上げる。隣のマリートの部屋か?
 ――ゴソゴソ……ガチャリ。……カツン、カツン、カツン。――
 扉の開く音に続き、足音が部屋の前を通りすぎていく。息を潜めてやり過ごすと、手早く装備を整え薄く戸を開いた。
 廊下にかけられた灯りが、階段を上がって行く人物の長い影を映している。足音を潜めながら、ライタールは後を追った。

 月の明るい夜。白い和の月と紅い魔の月が、空の上で向かい合うように輝いている。影の人物は、家々の間を何かにひかれるようにフラフラと歩いていく。
 曲がり角に差し掛かったとき、その横顔を月明かりが照らし出した。
「……マリート!?」
 うつむきがちの顔に表情はない。愛用のバスターソードをズルズルと引き摺るようにして歩いていく。
 ライタールは、少し離れて、後をつけていった。
 やがて街中を通りすぎると、街外れにある高台に辿り着く。狼煙のあった辺りに立つと、マリートは剣を高く掲げた。
 ――……いったい、何をしている?――
 しばらく様子を見ていると、数秒後、マリートは剣を下ろし、2、3歩ゆらりと歩くとその場にそのまま倒れ込んでしまった。
 ――!? ――
 ライタールが駆け寄ろうとしたその時、すっかり空き家になっていたはずの見張り小屋から、何者かが出てきた。線は細いが、どうやら男とおぼしきシルエット。
 ライタールは男の動きを見ると、次の瞬間すぐに行動に移った

 

 4-9. 真夜中は別の顔!?(後編)  投稿者:Marito  
 男は、倒れているマリートの方へ真っ直ぐに歩み寄ると、その場にしゃがみこんだ。
 その背後、ライタールは音も無く忍び寄ると、首筋に短剣を突きつける。
「動くな! 」
 凄みのある声で、動きを制する。
「……こいつに何をした? 」
「いや、何もしませんけど。……知り合いですか?」
 そう言って、男はくるっと振りかえる。声に緊張感が無い。が、隙も無かった。相手の動きが読めない。構えていたはずの短剣を払われている。
「どうもこの人、寝てるみたいなんですけどね」
 云われて、改めて、ライタールはマリートを見下ろした。
 マリートは、たしかに寝ているように見えた。愛用の剣を鞘ごと、まるで抱き枕のように抱えながら、スヤスヤと寝息をたてている。
「……ムニャ……ほっけ……」
 ……寝言か!? 
「いやぁ、なんとなく目が覚めて、窓の外眺めたら、この人が、倒れるところを見てしまってね。どーしちゃったんです? このお嬢さん」
 ――それはこっちが聞きたい。――その台詞を飲み込むと、急に疲れが襲ってきたように感じた。
「起きろ」
 腹立ち紛れ、靴の先で、寝ているマリートを蹴飛ばす。
「ん、……う〜ん」
 蹴飛ばされて、目を覚ましたマリート。
「あれ? ここ、どこ? 」
「それは、こっちが聞きたいんだが……お前こんなところで何をしている? 」
 マリートは、寝ぼけた目をこすって少し考えると、
「あ、またやっちゃのか……。すまん、寝相悪くって」
 そう言ってのけた。
「寝相ぉ!? 」
 男二人は、顔を見合わせた。
「あれ、あんた昼間の……? 二人ともそんな顔するなよ。 こんなのは、たまにしかやんないから……」
「てことは、これまでに何度もあったことなのか? お前、よくそれで……」
 とライタールが息を呑む。
「寝相ですか。すごい……ですね。たしか、あなたは街の宿屋に泊まったと思ったんですけど……」
 男もただただ、感心するばかりだ。
「ふぁ〜あ……、あふっ。気にするなよ……」
 マリートは、あくびを一つすると、立ち上がった。
「帰って寝直そう。悪かったなぁ」
 後半の一言を男二人に向け残し、イジーリントに戻る道を辿り始める。後に、きつねにつままれたような顔の男二人を残して。

 


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